核融合実験炉の展望


量子科学技術研究開発機構(QST) 那珂核融合研究所の一般公開で建設中の核融合実験炉JT-60SAの見学や核融合研究者から核融合の展望の話を伺いました。この記事では那珂核融合研究所で進められている核融合実験炉プロジェクトであるJT-60SAおよび国際協力のプロジェクトであるITER計画について紹介します。

核融合とは?

核融合については文科省の下記ページで簡単に解説されています。
かいつまんで説明すると……

重水素と三重水素(トリチウム)の原子核を核融合させるとヘリウムと中性子でき、同時に熱エネルギーが放出されます。核融合では少量の燃料から莫大なエネルギーを得ることができ、1グラムの重水素-三重水素燃料から石油8トン分に相当するエネルギーを得ることができます。核融合反応を起こすためには、原子核同士を非常に高速(秒速1000キロメートル以上)に衝突させる必要があります。その為に、燃料を1億℃以上に加熱して高温プラズマ状態を作り出します。核融合反応を持続するためには、

(1)プラズマの高温を維持すること

(2)燃料を高い密度で炉の中に閉じ込めること

の2つが重要となります。核融合炉の代表的な閉じ込め方式として、トカマク型、ヘリカル型、レーザ方式の3種がありますが、トカマク型が現時点で最も進んだ方式であり、JT-60SAおよびITERもこの方式です。

http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/iter/019.htm

核融合実験炉 JT-60SA

JT-60SAは、茨城県那珂市のQST那珂核融合研究所に建設中の核融合実験炉です。

写真は2017年の一般公開時に撮影した建設中のJT-60SAです。右の円形の構造物の内側にプラズマを閉じ込める真空容器と電磁石があります。左下に見える青い部分はプラズマを加熱するための中性粒子加速器です。重水素同士の核融合反応を起こすために、中性粒子加速器でプラズマを超高温に加熱し、超高圧を維持するために強力な電磁石の磁場でプラズマを閉じ込めます。

先代である磁場封じ込め型核融合炉のJT-60(運用終了)では65秒のプラズマ維持を達成しましたが、後継機のJT-60SAでは100秒を目指しています。
この100秒という時定数がとても重要で、核融合炉におけるプラズマが平衡状態となる時間と言われています。平衡状態となる要素は2つあり、プラズマ自体の安定と、プラズマと真空容器内壁の反応(超高温なので内壁の炭素原子がプラズマに拡散してしまいます)の平衡にかかる時間が100秒なのだそうです。
即ち、100秒を超えるとプラズマは安定となり、200秒でも1000秒でも原理的には同じ条件で安定させることが可能となり、核融合の研究は躍進すると考えられています。

JT-60SAは2020年より実験開始の予定です。

ITER計画について

ITERは日欧露米韓中印の強力な国際協力の下でフランスに建設中の人類史上最大の核融合実験炉です。<br />
JT-60では核融合のエネルギー増倍率Q=1の臨界条件を達成しましたが、ITERでは自己点火条件に近いQ=5〜10を目指しています(Q=核融合熱出力/プラズマへの入力熱エネルギー)。自己点火とは、核融合反応で生成されるα粒子のみでプラズマが持続的に加熱される状態で、Q=無限大となります。
JT-60SAで得られる知見で全面的にITERを支援するというのが我が国の位置付けです。
ITERは2025年からの稼働を目指しています。

核融合発電の課題

実用化に向けての最大の課題は核融合の熱エネルギーの取り出し方であると那珂研の研究者が仰っていました。
JT-60SAやITERではエネルギー増倍率を高め、核融合反応を持続的に安定させることを目標としていますが、その次のフェーズとして、その核融合のエネルギーを効率的に取り出すという課題があります。
プラズマの中心温度はJT-60でなんと5.2億℃!(人類史上最高温度)なのですが、その熱エネルギーを直接取り出す手法が今の所ありません。現状ですと、外に飛び出してくる中性子のエネルギーを、真空容器を覆っているブランケットで受け止める方法しかありません。
他に考えられている方法としては、ダイバータと呼ばれるプラズマ中から不純物を取り除くデバイスで熱を取り出すというのが検討されていますが、非常にエネルギー密度が高くなるので難しいそうです。
実際にエネルギーの変換までの実証は、ITERの後に控えている原型炉(2040年ごろ?)で行なう予定です。
現在は概念設計の段階のようです。

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